『WIN』金桂元インタビュー（８）

違いますよ。

そんな金が金庫にあったなんて知りませんが、管理は私の補佐官がやっていました。大統領が金を持って来いと言えば、彼が取り出して持って行ったりしていました。そんな訳で秘書室の生活費と大統領の金は区別されていました。私はその内訳までは知りませんよ。

そうです。

私は台湾大使を７年やっていましたが、金載圭キムジェギュを通じて秘書室長をやってくれというお誘いを受けた。私は大使をもう少しやりたかったのですが、大統領の指示だと言うので拒否できませんでした。

大統領にお会いして「私は政治も経済もよく分からないので十分に補佐できません」と婉曲に断ったところ、「いいや、何もしなくていいんだ。ただ傍にいてくれるだけで十分だ」と言われました。

ある時、こんなこともありました。

閣下が突然「今日、釜山プサンにでも行くか」とおっしゃいました。その日は志晩チマン¹朴正熙の長男であり、朴槿恵の弟。現・EGグループ会長で実業家。
陸軍士官学校に在籍していた当時から素行不良で父親を悩ませていた。その後も覚醒剤所持で度々逮捕収監されている。の誕生日なのでお祝いパーティーを開いてあげたいとのことでした。陸英修女史がお亡くなりになってから一度も誕生日を祝ってやれなかったことを気に掛けていらっしゃったようです。それで陸軍士官学校にいた志晩を陸士校長の許可を得て呼び出しました。釜山のとあるホテルでした。

夕食を共にしてから、ダンスホール（ナイトクラブのような所）へ行こうと誘われました。いつだったか前に亡くなられた大物歌手の金貞九キムジョングも、その時に熱唱していたのを覚えています。

10分程経ってから大統領が「我々はここで退散しよう」とおっしゃいました。子供たちだけで過ごせるように配慮されたのだと思う。

そういうお姿は見るに忍びなかったのですが、陸女史がお亡くなりになってからは頻繁にあったのです。

そうです。ある時コーヒーを飲みながら閣下に本気で建議しました。

「これからは家庭を持たなければなりません。良き御婦人を選りすぐって再婚なさった方が良い」とお話しました。陸女史が亡くなってから何年か経過しているので国民も理解するでしょうと言ったのです。

私に突然「崔太敏チェテミン²セマウム奉仕団総裁。崔順実の父。
朴槿恵との関係が後に崔順実ゲート事件に繋がっていく。を知っているか」と尋ねられました。金載圭から話は聞いていたので「はい、知っています」と答えました。そしたら「そいつなんだが、槿惠を誘惑していて気になっている」とおっしゃるのです。慶尚道キョンサンドの方言で「化け物に憑りつかれる」という言い回しじゃなかったかな。大統領は「彼女がそんな野郎に惚れ込んでいては、とても嫁に行けなどと言えない。それで何で俺が再婚なんかできるんだ」とおっしゃいました。

私は金炯旭キムヒョンウクの後を継いで中情部長に任命されました。私が望んだ訳ではありませんでしたが、大統領に強く勧められてやむを得ず引き受けました。

中情部長の一年は私にとって苦痛の日々でした。権力の中枢であるせいか、ことごとく謀略と内紛がありました。金炯旭は８期生で私の後輩です。それなのに私が部長として就任すると、自分の手の内にある人間を全部引っ張って行っては朴大統領を訪ねて策略をめぐらせました。

情報部にいたので、あらゆる権力に目が眩んだ連中が訪ねて来ました。権力と金脈を握りたい連中です。

そうです。私が中央情報部長だった71年に大統領選挙を行ないました。

その時の目的は野党候補を柳珍山ユジンサンにすることでした。それがダメなら次の案がＹＳ（金泳三キムヨンサム）でした。ところが中情の政治工作にも関わらず、ＤＪ（金大中キムデジュン）が大統領候補になってしまいました。我々としては最悪の事態でした。そのために私は当時の共和党から激しい非難を受けました。情報部長が無能だからＤＪが候補になってしまったというのです。

共和党内の四人衆の攻撃によって、結局私は情報部長を辞めざるを得ませんでした。それから台湾大使になりました。

自由党時代、私が陸軍情報局だった時にＪＰが情報課長でした。２年くらい一緒に仕事をした経験があります。

当時から彼は国際情勢と軍による革命に強い関心がありました。その当時はエジプトがナセルによる独立闘争を繰り広げていましたが、英国相手にエジプトがどうやって戦うのか関心を見せていたのを覚えています。随時私に報告をして、当時の参謀総長だった宋堯讃ソンヨチャン将軍にも報告していました。

ＪＰは政治的な関心が高かったですね。

4.19⁴1960年に起きた学生革命前だったと思いますが、ある時は故郷である扶餘プヨから国会議員選挙に出馬するという決意表明をして私に相談して来ました。私が出馬には金が掛かるのに準備してあるのかと尋ねたところ、ある程度は準備していると話していました。更に私が落選した場合のことまで考えてあるのかと聞いたら「それは考えていなかった」と答えました。私が「だったら賛成できないよ。もう一度考え直しなさい」と説得したことがあります。

その数日後にＪＰがまた私を訪ねて来ました。その問題を抱えて大邱テグにいた朴正煕パクチョンヒ将軍に会って相談したところ、私が言ったことと全く同じことを言われて出馬を断念したと言っていました。ＪＰはそんな風に政治への関心が高かったのです。

軍の改革にも熱意を持っていました。時には改革の必要性について声を上げることもありました。彼は結局、８期生を中心とする15人の下克上事件を起こして軍を離れることになりましたが。

今の私は年金すら受けられません。赦免復権したのに、申請期間が過ぎてしまったので受けられないと言うのです。規定がそうなっているようですが、理に適っていませんよ。転役後の一定期間内に年金申請をしなければならない規定があるが、私が獄中にいる間に過ぎてしまったというのです。そんな状況で年金の申請なんかできる訳ないでしょう。

最近は息子からひと月に一度小遣いをもらって生活しているが、IMFで皆が厳しい状況ではないですか。こんな時に年金でも受けられたらと思う時はありますね。

また、父が故郷である慶尚北道豊基キョンサンブクトプンギで教育事業を行なうので学校を一つ建てた。私も関心があって、時々教育関連資料を集めてきた。ところが、私は前科者なので学校を任せてもらえませんでした。そういう時は本当にこれでもかという悔しさが込み上げてきます。

事態を収拾する過程で、事件をこんな風に過大解釈して政権を奪った新軍部の行為が、文民政府による歴史の立て直しによってクーデターであったことがことごとく表面化しただけに、10.26に対する再評価もなされなければならないと思います。政権を取るためにクーデターを起こしたことが明るみに出た以上、その原因となった10.26もまた正しく評価されるべきです。

「主犯・金載圭、共犯・金桂元、金載圭の部下を犯人とした政権略奪目的の内乱事件」ではなく、「金載圭の衝動的単純殺人事件」として正しく位置付けなければばらないと思います。

政権奪取のための反逆事件があったということにすれば、自分たちのクーデターを正当化できるからでしょう。中央情報部長、秘書室長、陸軍参謀総長らが関与したことにしなければ、そのように見えないでしょう。私は全斗煥チョンドゥファン一味による野望の犠牲者第一号でした。